魔法医(夢の二十代端数切捨て)のとある一日
その日、藩国は晴天であった。 それは森の一角に住まう青年にとっても同じで、 「あー、気持ちのいい日和だなあ」 「そうか。仕事だ」 何かが一気に台無しになった。 沈鬱な顔で声のした方を見やれば、宙に変なものが浮いていた。 全体的な印象は、丸い。というか、太い。 太った人間を2頭身にデフォルメした、と言えば大体通じるだろうか。 背に半透明の羽を生やし、茶色い外套を纏い、前頭部以外禿げ上がった、傲岸不遜な態度の太った何かがそこに居た。 怪しさ大爆発と言うか妖怪的だが、れっきとした精霊である。略して妖精。響きはかわいいが内実と呪わしい程の差があった。 「終わった……さよなら俺の爽やかな一日」 幸福の儚さにひとしきり涙を流す。そしてそれをつまらなさそうに見る妖精。いつか蝿叩きで撃ち落したい。 「……で、今日は難ですか」 言葉は変だが心情はとてもよく分かる台詞である。 「ふむ。森の奥で子供が迷っていてな。怪我もしているので治療した上で安全なところまで送り届けて欲しい」 「子供?」 それを聞いて幾分意識が引き締まる。 悪気なく悪意的な無理難題を突きつけはするが、こと子供が関わるとこの妖精はまともだ。尊敬してすらいる。死んでも口には出さないが。 この場合理由も何も放って置いて良く、 「場所は何処なんですか」 「案内しよう。ついてこい」 「ちょ、上着がっ」 「30秒待つ。急げ」 /*/ 藪漕ぎしながら必死について行くと、目の前にやや広めの川があった。 妖精にとっては何ら障害にならないが、 「俺飛べないんですけど!?」 「泳げば良かろう」 「迂回して案内してくれればいいじゃないですか!」 「これが最短ルートだ」 「だああああぁっ!」ダポン。ザブザブザブ……。 「ちなみにこの川には血吸い蛭がいてな」 「先に言えーーー!」 /*/ 「着いたぞ。この辺りだ」 返事はない。つーかできない。途中経過がトライアスロンだったぞ。 「ふむ……向こうに2、3分も歩けば姿が見えよう。後はお前の役割だ」 言うだけ言って方向を指し示すと、妖精は姿を消した。 優しいのか優しくないんだか良く分からないが、いつもの事だ。 どうにかこうにか息を整え、 「ふう……よっこいしょ、っと」 立ち上がって、大きく深呼吸。 気息を整えて作法に則って呼びかければ、青い光たちが寄って来て、力を貸し始める。 「お願いします……」 言われた方向に歩いて行くと、木の根元に蹲っている子供が一人。物音に顔を上げてこちらを見ていた。 心細かったのか、表情には不安の色があったが、現れたのが大人の人だったからだろう、一転して安堵に変わった。 あー、えーと、うん。あからさまに頼られると、こう、素直に嬉しい。 「こんな所で一人でどうしたんだい?」 隣にしゃがみこんで理由を聞けば、近所の人達と一緒に木の実取りがてらに遊びに来ていたらしい。 で、まあ子供たちが遊びに夢中になるのも当然で。かくれんぼなどしていたら逸れてしまったと。 ちなみに木の根元で座り込んでいたのは疲労もあるが、足を挫いてしまって歩けないからだそうな。 「これでも医者の真似事をやっててね。ちょっと見せてくれるかな」 見せて貰うと、右の足首が真っ赤に腫れ上がっていた。確かにこれでは歩くのは辛いだろう。 「じゃあ、ちょっと治してみるから。動かないでね」 患部にそっと手を当てる。その手には青い光。 集中する為に目を閉じる。だが支障はない。 目によらない感覚が周囲の様子をイメージとして脳裏に伝えてくれる。 長かったのか、短かったのか。 目を開けて手を離して見れば、足の腫れは綺麗に引いていた。青い光も、既にない。 彼らに返礼し、少女(女の子だった)を立ち上がらせる。 立ち上がる時はおっかなびっくりな様子だったが、足を着いても痛くない事に気付くとはしゃぎだした。驚き半分、喜び半分と言ったところだろうか。 少女はしゃがみんで目線が等しいこちらの手を取ると、 おじ・・・っ!?(゜▼ ゜‖) この瞬間、世の青年男子の心は一つになったに違いない。 /*/ この後、送り届けた先の親御さん達に誘拐犯扱いされました。 誤解が解けたら謝ってくれたけど。魔法医涙目。
文章&構成:アルト
イラスト:千隼 悪巧み:アルト&助言して下さった方々 ※実在の魔法医は少々異なる場合があります。用法用量的に話1/10くらいでお読み下さい。 |