西国人+パイロット+ドラッガー



砂漠の民薬物強化スクランブル待機




 宰相府藩国、ひいては帝國軍の中核を為すのは、I=Dや航空機の主・副の操縦を担当するパイロット系職業である。
 帝國軍や、秘書官団から成る東方有翼騎士団が、ターン10以降の宇宙戦で華々しい戦果を上げた事は記憶に新しく、宰相府のパイロット系職業の強力さについては、皆が認める所と言っていいだろう。
 そう。確かに、宰相府のパイロットは強い。
 だが、彼らも決して最初から強かったわけではなかった、という事は、誰もが心に刻んでおいて欲しいものである。



L:西国人+パイロット+ドラッガー{
t:名称=西国人+パイロット+ドラッガー
t:要点(西国人)=エキゾチックな人材,砂避け,灰色の髪,日焼け対策された服装
t:要点(ドラッガー)=薬を静脈に入れるための管,病的
t:要点(パイロット)=パイロットスーツ,マフラー
t:周辺環境(西国人)=オアシス,巨大な港,交易路,蜃気楼,涼しい家
t:周辺環境(ドラッガー)=廃墟
t:周辺環境(パイロット)=飛行場
t:評価=
体格筋力耐久外見敏捷器用感覚知識幸運
−1−1−1−1−2
t:特殊={
*西国人は一人につきターン開始時に燃料1万tが増加する代わりに資源1万tを消費する。
*西国人は一般行為判定を伴うイベントに出る度に、食料1万tを消費する。
*ドラッガーはドラッグによる強化行為により、任意の評価を評価+1補正することができ、この時燃料2万tを必ず消費する。
*ドラッガーは予知夢行為(判定:幸運)ができ、この時燃料1万tを消費する。
*パイロットはI=D、航空機、宇宙艦船のパイロットになることができる。

t:次のアイドレス(西国人)=高位西国人(人),ドラッガー(職業),サイボーグ(職業),整備士(職業),猫妖精(職業),パイロット(職業),歩兵(職業),アイドレス工場(施設),観光地(施設),燃料生産地(施設),国歌(絶技)
t:次のアイドレス(ドラッガー)=ウォードレスダンサー(職業),ドラッグマジシャン(職業),入院患者(職業)
t:次のアイドレス(パイロット)=舞踏子(職業),名パイロット(職業),カール・T・ドランジ(ACE),瀧川陽平(ACE)


 宰相府は国内に巨大な水路を設けた、立体構造型の藩国である。
 帝國においては珍しい西国人国家であり、更には水を潤沢に確保できている、という点で他の西国人国家ともやや異なる向きがあるが、それでもそこに住む人々は砂漠地帯での生活を前提とした服装をしている。
 外を出歩く際は陽光と砂塵に対して防護策を取りつつ、なお且つ通気性は損なわないよう気を使う。
 それでも、やはりいつの間にか肌は焼けているものなのだが、女性の場合は白粉を使うなどして白く見せる場合もある。これは単なる身嗜みではなく、汗をかいて肌がベタつく不快感を抑える為でもあった。
 ただし、それもあくまで屋外での話である。
 冷房設備の普及率が非常に高く、屋内は段違いに過ごしやすいのだ。
 室温を涼冷に保つ事が出来るので薄着が可能であり、屋外では出来ない故の反動か、ラフな格好をしているものもいる。
 その快適な環境を維持するにあたって、宰相府は電力の確保に相当気を使っているのだが、民衆はあまり深く考えてはいないようだ。

外出着

 さて、国内に張り巡らされた水路であるが、これと巨大な壁によって国内は大小様々に区切られており、陸運は満足に機能しているとは言えない。
 そこで海運に限らず、国内輸送においても水運を主眼に据え、水路を利用した船舶輸送が積極的に行われている。
 重要な区画の近くには国内の物資輸送に限らず、諸外国との各種交易にも用いる事を前提とした巨大な港湾施設が建造されており、人の集まりもまた、多かった。
 そんな港の一つ。居住区にある港のすぐ裏手に、軍属の者たちの住居として用意されたアパートメントが立ち並んでおり、パイロット達もここに居を構えている。
 このアパート群、他区画とのアクセスが比較的容易で日照も充分と、立地条件は悪くはなかったが、残念ながら住民達がここで過ごす時間は少なく、休日以外の大部分は軍施設内にある宿泊施設を利用しているのが現状だった。
 とはいえ、たまの休日には各人が自宅に戻り、貯まった洗濯物と格闘したり、部屋の掃除をしたり、ひたすら眠り続けたりしていて、何だかんだと自宅を大切にしているようではあったから、宰相府としても民間に払い下げるのは忍びなく、結果として近隣住民からは、閑静な住宅街と見られていたりする。


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 その日、24時間の非番を使って自宅に帰っていたあるパイロットの少女は、割り当てられたアパートの自室の鍵を締めたところで、同僚の男女二人に会った。



「よ。ちゃんと寝れたか?」
「おはよー。って言ってももう昼だけどね」

 に。と笑う男性と、朗らかに挨拶してくる女性。どちらも少女にとっては先輩で、何かと世話になっている。
 丁寧に挨拶を返した。自分が少し寝過ごしてしまったことについては、黙っておくことにする。

「次のスクランブル待機まで、まだ4時間あったよな。何か食べてから……」

 二人は自分を食事に誘おうとしてくれているようだった。いつもならば、このままファミリーレストランかファーストフードにでも入って、談笑しつつ時間を潰すところだろう。
 ただ、今日の彼女には、これから行かなければならない所があった。

「ああ、その前にメディカルセンターか。しんどいよな、あれ」

 スクランブル待機に入る前に、宰相府メディカルセンターに行く必要があるのだ。
 本当は二人と一緒にお昼を食べたかったが、我慢して誘いを断ることにする。

「仕方ねえって。投与サボった時の疲れ具合なら俺も知ってるし」
「強化措置受けるのって着任から少しの期間だけだから、乗り越えれば楽になるよ。頑張って」
「ま、体調不良が続くようなら申告すりゃ投与量調節してくれっから。我慢できないくらい苦しかったらちゃんと言うんだぞ」

 誘いを断った事を気にするどころか、自分を気遣ってくれた二人に感謝し、メディカルセンターに向かうことにする。

「うん。じゃ、また後でねー」
「遅れんなよー」

 先達に恵まれているのは、帝国軍のパイロットをやっていて良かったと思う理由の一つだ。


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 体に多大な負荷のかかるパイロットを続けていくためには、体力・技術を鍛える訓練だけでなく、直接的な肉体強化もある程度必要になってくる。
 直接的な肉体強化とは、すなわち薬物投与による強化措置であり、養成過程及び実戦配備当初における必須項目である。
 薬剤投与対象については、執拗なまでに精密検査が繰り返される。あまりにも多いのでパイロット達からは面倒だと不評だが、薬物障害や後遺症の出ないように、かつこれから長く続くパイロット生活に耐えられるようにと、軍が細心の注意を支払っているお陰で彼らが助かっている部分は、間違いなくあった。
 とはいえ、ドラッグはやはりドラッグ。体に対するマイナス効果が0になるわけではなく、パイロットの訓練と習熟が進むに従って、自然と投薬量は制限され、やがてほぼなくなることになる。
 元々、心・技・体が揃い切っていないパイロットの生存性を上げるための処置であり、鍛えた業は強化など凌駕する、という事を帝國軍では誰もが知っているから、新米パイロット達は皆、早くドラッグなどに頼らなくていいようにと、日々訓練に明け暮れることになる。



 同時に、支給された薬物を投与する姿を仲間に見られたくない、というような事を考える者も多かった。
 未熟の証明を人に見せるのが嫌だ、という者も、いておかしいことはないだろう。



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 少女はメディカルセンターを出て、今は使われていない旧施設に忍び込んだ。
 精密検査には、詳細なデータを何度も繰り返し取得し蓄積することで、パイロットのその後の健康管理を効果的に行うという目的もあるのだが、それでもこんなに頻繁では疲れもする。
 処方された薬物と投与器具を取り出して壁際に座り、指示通りに体へと投与する。


 少し体が軽くなるような感覚。同時に、軽い倦怠感。
 やはり、こんなものに頼りたくない、と思った。


 投薬が終わると、少女は立ち上がる。そろそろ非番も終わり。スクランブル待機のために集合しなくてはならない。



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 パイロットの仕事とは、基本的に『守るべきものを守る事』である。
 任務は数多くあり、その合間にこなすべきタスクも山のようにあるが、大本を辿れば、全てがそこへ帰結する。
 訓練を行うのは任務の達成率を高めるためであり、任務の達成率を高めることは、作戦成功率を高める。そして、作戦成功率が上がるほどに情勢に対する影響力は強まり、結果として防衛対象である民衆の安全に繋がるのだった。


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 その防衛のための一歩に、スクランブル待機というものがある。
 不意に敵性組織などからの攻撃があった事を察知した時、最速で現場に急行するための待機人員の事で、いつでも出撃可能な状態を維持するために、長時間飛行場に詰めて待機することをさす。

「退屈しのぎにしりとりでもしないか!」
「やだ。あんた弱いし」

 先輩二人と待機を続けている少女。新米である彼女が一人でスクランブルに応じるなどという事は当然ながらなく、経験豊富なベテランとチームを組んで、今は発着場のロビーで三人、くつろいでいた。

「お前、スクランブルに出くわしたこと、あったっけ?」

 退屈を紛らわすためか、男性の方の先輩が話しかけてくる。
 スクランブル待機は何回か経験していても、本当のスクランブルに出くわすケースは珍しい。
 正しくは、スクランブルがあっても実戦になることが珍しい。

「ああ、誤報には出くわしてるよな。やる気削がれるけど慣れだ、慣れ」
「あればっかりはねー。管制室の人も別にサボってるわけじゃないし」

 未確認機影を見つけても、それが敵性存在である場合など、そう多くないのだ。
 本来の航路を外れてしまった民間機などと出くわすケースも多い。

「ま、そういうのを見逃さないからこそ、いざ事件がおきた時も遅れずに対処できるって事だ」

 疲労はするが、それでも彼らは守るべき物を守っている。
 それを誇らしいものだと、彼女は感じた。
 その時。

『30A11、30A11、D32のポイントに未確認機影あり。待機中の各員は――』

 スクランブルが、かかった。
 先輩二人を見ると、もう姿がない。走り出している。
 慌てて、後を追った。



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 新人時代の彼らは、決して特別な強さを持っているわけではない。
 だが、胸にはしっかりと誇りを抱き、守るべきものを心に持っているのは変わらない。
 彼らが着ているパイロットスーツ、宰相府のモチーフカラーである白を基調としたその姿については、男女問わず宰相府全体から人気が高い。
 砂塵舞う風にマフラーをたなびかせるその姿は、宰相府ならずとも子供達の憧れの的になっている。


 宰相府藩国、帝國軍パイロット。それは、弱者を守る剣であった。




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【スタッフ】

<イラスト>
 しじま
 千隼
 猫野和錆

<設定文>
 雅戌

<HTML・デザイン>
 アルト

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