「保育園かー。なつかしいなー」 「へぇ、藩王は保育園だったんですか。ぼかぁ幼稚園でした」 「これでも保育園の人気者だったんだぜ」 「それ、今言うのは悲しいっすよねー」 「まぁ、良いじゃないか」
72118002 藩王と摂政、保育園第一号の建設現場を見つつ。
保育園。 パッと聞いて思い浮かべるのは、なんだろうか。 走り回る子供だろうか。 ソレを見守る保母さん達だろうか。 それとも、子供達のはしゃぎ声だろうか。 だが、私は。 保育園といえば、あのなんともいえない暖かさを思い出す。 その昔、私も保育園に通っていたことがある。 家から徒歩で約2分。直ぐ傍にあるものの、道路の都合上、車でぐるりと回って送ってもらっていたのを覚えている。 時折、自転車で送ってもらうときは新鮮だった記憶がある。 今でもそれらの記憶が鮮明に残っているのは、つまるところ、保育園が楽しいところだったからだろう。 ある日。 保育園にも休みはある。所謂年末年始や盆休みなどだ。 確か、5歳頃だった私は、休みであるのに一人で保育園に行った。 がらんとしていて、とても悲しくなったのを覚えている。 一人で泣いている所に、居ないことに気づいた親が捜しに来て怒られてさらに泣いた。 今でも、近くを通りかかり、がらんとした保育園を見るとふと悲しくなる。 何故そんなにも悲しいのか。 それは、保育園とは「もう一つの家で、他の家族に会える場所」という印象があったのかもしれない。
玄霧藩国では、T11からにかけて(建設中も含め)施設が急増した。 「食糧倉庫」、「ヘイムダルの眼(の、周辺施設)」、「共和国環状線」、「宇宙港」、「寮」、「結界都市」。 これらの増加は、働き口の増加も増える。 ソレが何を意味するかというと、子供の世話まで手が回らない家庭が出だすのである。
それらの大義名分を元に、藩国肝いりで保育園を建設する運びとなった。
保育園、というからには保母さんや、子供達の食事を作るスタッフも大事だ。 寮の時ももちろんだが、食堂スタッフには食品衛生の資格を必要とする。 保母さんには、資格も必要だが、何よりも子供との相性を重要視した。 相手は小さな子供である。愛を持って接することが出来なければいけない。 もちろん、保母さん・保父さんにはピアノが弾けることが条件付けられた。形式美と言うやつである。 肝心の保育園のデザインは、藩国の技師で娘のイクが担当することとなる。 何のことはない。適材適所というわけだった。 そのイクが、ある日一匹の老ヤギをつれてきた。 なんでも、保育園の園長らしい。 ……玄霧藩国には、長老と呼ばれるヤギが居る。 山の動物の長とされ、古くはターン1の頃からずっと存在している。 実際のところは代替わりしているのか、それとも一種の神々か何かなのかは誰も知らないが、食糧生産地などにこっそりいたりと、謎の尽きない人物(?)である。 その長老を、イクは大層好いていた。 いつだったか、是空王に会ったときに長老の絵を「牛の絵サンキュー」といわれ、珍しく日記で抗議(といっても、「おしい!」といったものだが)した程だ。 その長老の、子供らしい。見た目には本人(?)よりも大きく見えるわ長毛種だわで色々違う気がするが、長老の子、長老Jrとのことだ。 これにはスタッフ一同困ったが、藩王が即座にOKを出した為、副園長という役職を造り対処することとなった。 最初はどうなることかと思われたが、実際子供たちが集まりだすと、たちまち人気者になった。 難色を示していたものも、その光景を見ると『まぁ、いいか。』ということで結論がついた。 結局、皆も長老Jrが気にいっていたのだろう。 余談ではあるが、ちゃんと長老Jrにも給料が払われ、専用の口座に振り込まれることとなる。 長老達は人語を解するという噂だが、この口座の給料が使われることがあるのかは誰も知らない。
さて、この保育園では様々なことを教えている。 それには十三章からなる「保育所保育指針」(現代日本と同じものを採用する)を基礎に、藩国独自のものも含まれている。 例えば、藩国には様々な植物がある。 その中には、食用に適さないものや、毒を含むものもある。 それらを気づかずに食べてしまってはいけない。 また、藩国には様々な動物もいる。 中には危険な動物も居る為、見分け方を教えたりもする。 これらは本来、土着の教えなどで受け継がれていくものだが、親にその余裕がない場合等で必要な知識を得られないまま育つのは大きな損であるためであった。 その他、年長者にもなると「子供職場体験」と称したイベントがある。 食糧生産地に行って果実の収穫をしたり、葡萄踏みをしたり、大神殿で一日過ごしたり、保母さん監督の下、市場でお店をやってみたりと色々なことをやる。 中には、宇宙港の見学をする組もあり、選ばれた組の子供たちは一躍人気者になるほどであった。 ただ、宇宙に上がるのは子供たちにとってはかなりの長旅である。遠足のバスの中であるような悲劇が何度か報告されているが、それもまぁ、大事であった。 そして、この保育園には藩王のちょっとしたこだわりがあった。 それは、政庁メンバー手作りのBALLS人形である。 保育園にはBALLSが必須。 しかし、今の世の中では作ったところから危険になるかもしれない。 しかし、イメージする保育園には必要なのだ。 というわけで、政庁の面々を集めて一個ずつ作らせたのである。 もちろん、動いたりはしない。そうして、布と綿で出来たころころころがる人形が12個送られることになった。 当初は木彫りで作るつもりであったが、結構な重さと投げやすさで当たるとかなり痛いので、一つの試作品を最後に、封印されたのは秘密である。
こうして、藩国肝いりの保育園が誕生した。 これだけでは限られた子供しか受け入れられないが、この保育園を元に数は増えていくだろう。 誰も、子供が泣いているのが好きなものは居ないのだ。 朝には親と別れるのを泣く声を聴くかもしれない。 だが、昼には皆の歌声が響き、夕方には子供たちの遊ぶ声と、迎えに来た親を喜ぶ声が響くことだろう。 少なくとも、私はそう願う。 参考資料URL: http://ba.boo.jp/hoikushishin/ ※現在日本で採用されている保育指針です。
文章:玄霧弦耶
イラスト:イク マイム 構成:アルト |